「ロイヤルミルクティーの発祥」について考える
ロンドンティールーム発祥であり、看板メニューである煮込み式紅茶『ロイヤルミルクティー』。
ロイヤルミルクティーのレシピを開発したのはロンドンティールームの前身となる紅茶専門店の時ですから、早いもので提供し続けて45年ほどになります。
「ロンドンティールームのロイヤルミルクティー、本当に美味しい!」
お客様からのこの言葉が私の原動力になっているといっても過言ではありません。
ロイヤルミルクティーを目当てに遠方からご来店いただく方や大阪に用事が出来た際には必ずお立ち寄りいただく方など、本当に嬉しく思うと共に元祖ロイヤルミルクティーの生みの親として「常に変わらぬ美味しさを提供し続けたい」と身の引き締まる想いです。
さて今回は、しばしば話題にも上がり、当店にご質問をお寄せ頂くことも多い「ロイヤルミルクティーの発祥ってどこなのか?」について、私の記憶と共に見解を述べたいと思います。
「ロイヤルミルクティーの発祥はどこか?」は、名付け親の喫茶店探し?
「ロイヤルミルクティーの発祥はどこか?」という話題は多くの場合、「初めにこの名前を付けてメニューに掲載した喫茶店はどこか」について語られているといった印象を受けます。
つまり、『ロイヤルミルクティー』というネーミングに着目し、名付け親は誰か(どこの喫茶店か)?という点において発祥店についての議論が進んでいるように思います。
メニュー開発においてキャッチ―なネーミングは非常に重要ですから、そこに着目されるのは当然といえば当然の話でしょう。
しかし、私が常日頃から「ロイヤルミルクティーの発祥店はロンドンティールームである」と申し上げているのは、煮込み式で作った紅茶を『ロイヤルミルクティー』と名付けてレシピを確立し、提供したのがロンドンティールームであるということです。
現在、一般的に広く認識されている『ロイヤルミルクティー=紅茶と牛乳をお鍋で煮込んで作る濃厚なミルクティー』というイメージは、ロンドンティールームがレシピを開発した上で広めたものです。
決して「『ロイヤルミルクティー』というネーミングを考え付いたのがロンドンティールーム」と主張しているわけではない、ということだけ強く申し上げておきます。
「ロイヤルミルクティー」の名付け親は?
では、「ネーミングの発祥店はどこか?」という話に戻りますと、私も喫茶業界に入って長くなりますが正直に言うと分かりません。
私が喫茶業界に足を踏み入れたのは1977年ですが、まだインターネットのない時代ですから全国的な喫茶情報を取り入れるには喫茶店業界誌しかありませんでした。
しかし、業界に入る前から業界誌自体は熟読していましたが、『ロイヤルミルクティー』という名称やメニューについて言及した記事があった記憶はありません。
ただ、明確に残っている記憶の中で、1960年代初期にはすでに『ロイヤルミルクティー』という名称でメニューを出している喫茶店が東京にあったのは確かです。
新宿の歌舞伎町にあった「純喫茶ロンシャン」という喫茶店で、ミルクティーにホイップクリームをトッピングしたドリンクが『ロイヤルミルクティー』という名前で提供されていました。
「ウインナーコーヒーのミルクティー版」と想像していただけたら分かりやすいでしょうか。
私も1961年に日本大学へ入学した当初からよく通って飲んでおり、非常に思い出深く記憶に残っています。
▲「純喫茶ロンシャン」の写真は残念ながら見つからなかったが、日大卒業アルバムを発掘。4回生時には東京オリンピックも開催され、在学中エピソードのひとつとして卒業アルバムにもしっかり記載されている。
しかし、当時から『ロイヤルミルクティー』という名称自体に奇抜さや新鮮さを覚えた記憶はなく、偶然ふらっと入った喫茶店に『ロイヤルミルクティー』というメニューが記載されていることも間々ありました。
つまり、別段珍しいネーミングではなかったのです。
なぜロンドンティールームは煮込み式紅茶に「ロイヤルミルクティー」と名付けたのか?
では、なぜ既にある程度普及していた名称をあえて付けたのか?と申し上げると、私が開発した濃厚なミルクティーを表現するのに、これ以上に適切なネーミングが私の中で見つからなかったというのが一番の答えです。
ロイヤルミルクティー誕生秘話の記事では、
英国式ミルクティー→英国と言えば王室→王室はロイヤル。
英国式ミルクティーなのでロイヤルミルクティーはどうか、といった流れ
と、イギリスに関連付けた尤もらしい理由を書いてはいますが、本音をばらすと学生時代に通った「純喫茶ロンシャン」の『ロイヤルミルクティー』という名称がずっと記憶の片隅に残っていたことも大きかったように思います。
ネーミング案を出す際、「ティーポットで淹れるミルクティーとは一線を画した”特別濃厚なミルクティー”を表現する」のに最も適した名称は、これほどまでに自分の想いを分かりやすく端的に示すことができるネーミングは『ロイヤルミルクティー』を置いて他にはないと感じたのです。
事実、今でも「ロイヤルミルクティーはイギリス発祥ではない」ということに驚かれる方がたくさんいらっしゃいます。
その誤解こそが、この短い名称の中に「イギリスらしさ」や「特別感」が表現されていると多くの方に受け取られている何よりの証明ではないでしょうか。
最も重要なのは『ロイヤルミルクティー』の名前で一番最初に思い浮かぶ店舗であること
私自身は、『ロイヤルミルクティー』というネーミング自体をさほど重要視していません。いくらネーミングは重要とはいえ、重要視し過ぎると「名称のみの独り歩き」になってしまう恐れがあると思っていたからです。
それよりも店のメニューにするにあたり、最も大事なのは『ロイヤル』という冠に相応しい飲み物であるという「説得力」が必要だと考えていました。
それまでは「ミルクティーはティーポットで淹れた紅茶にミルクを注いだもの」、「茶葉を鍋で煮出す飲み物はスパイスと砂糖を大量に投入する(=チャイ)」といった考え方が当たり前でした。
しかし、イギリスで感動した家庭的な美味しいミルクティーを日本の環境で再現するためにそれまでの常識を覆し、
- スパイスも砂糖も加えずに「茶葉と牛乳だけ」というシンプルな材料
- 当時、種類が殆どなかった牛乳に濃厚さを出すために「鍋で炊き込む」という手法を取った
- エグ味を出さずに紅茶のコクだけを出すために、使用する茶葉に着目して煮込み専用茶葉のブレンドを開発した
と言った、開発当時にはなかった(あるいは出来ないと諦められていた)発想を実現した上で『ロイヤルミルクティー』と名付けたことに意味があると考えています。
『ロイヤルミルクティー』の開発に成功した時、『ロイヤル』と名付けるのに相応しい「まさに名は体を表す飲み物である」という自信があったのです。
だからこそロイヤルミルクティーという名前が一般化した現代において、「ロンドンティールーム=ロイヤルミルクティーの美味しい店」 「ロイヤルミルクティー=大阪のロンドンティールーム」と認識していただくことが、何よりも重要だと考えています。
「世間にどれほど認知してもらえているのか」「一番最初に思い浮かぶ店であるか」に意味があり、いくら声高に「発祥店(元祖)である」と叫んだところで理論立った知識や実績などの実態が伴っていなければ、単なる言ったもの勝ちだと見なされてしまうとも考えていました。
より多くの方に知ってもらうためには相応の覚悟と努力が必要不可欠だと考え、雑誌やテレビの取材はもちろん、
- 1人前から6人前までレシピを確立し、ブログや動画に公開
- ロイヤルミルクティー専用茶葉の販売
- カフェを開業したいと考えている人にむけた実践的な講座の開講
- SNSを活用した紅茶に関する情報発信
などといった「ロンドンティールーム発祥の煮込み式紅茶『ロイヤルミルクティー』」の認知度を上げるための様々な取り組みを行っています。
レシピを公開してから今日まで「そんなに強火で煮込んだら、エグくて飲めたものではないのでは?」というご意見も数えきれないほど頂くほど、常識を覆す作り方だと驚かれたものです。
しかし、「他では味わえない」という味わいに関するご評価や様々な取り組みの積み上げが実を結び、コーヒー派の方やミルクティーはどちらかというと苦手という方が常連になってくださったり、遠方より当店を目当てにご来店いただく方など、クチコミがクチコミを呼びたくさんの方に広げていただいていると感じます。
『ロイヤルミルクティー』という名前を見た時に、人々にとって一番最初に思いつく店になりたい。
それが根底にあるからこそ、「ロンドンティールーム発祥の煮込み式紅茶『ロイヤルミルクティー』」を普及させるための様々な施策に挑戦し続けています。
まとめ
昔は情報源が殆どなかったのもあると思いますが、実は『ロイヤルミルクティー』というネーミング自体は割とありふれたポピュラーなものであった、というお話でした。
かくいう私も、学生時代の思い出深い喫茶店のメニュー名に便乗して付けたようなものなので、名前について取り立てて言うつもりもないということだけ改めてお伝えしておきます。
ちなみに、これまで数多くの企業や個人が『ロイヤルミルクティー』というネーミングの商標権を獲得しようと、登録申請をしています。
しかし、ネーミングがあまりにも一般化していることもあり、その申請はすべて却下されているようです。
余談ですが、関西ではアイスコーヒーを『レイコー』と呼んでいた文化は少し有名ですね。
それと同時にミルクティーは『ミティー』、レモンティーは『レティー』と略して呼ばれていたものです。
じゃあ『ロイヤルミルクティー』のことはなんて呼んでいたか?
正解は『ロイヤルミティー』
「ロイヤルは略さないのかー!」というツッコミが少し聞こえてきそうです。