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2021.04.13

モノづくり産業の衰退と、技術伝承の途絶えへの憂い

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目次

ロンドンティールームのオリジナル商品はすべて日本で製造し、販売をしています。
取引を依頼している工房やメーカーとはもうかれこれ30年以上のお付き合いになりますが、雑談交じりに製造業界の色々な話を聞くと、日本のモノづくり産業は想像以上に危機的状況に瀕しています。

皆様にも是非知って頂きたい状況だと感じたため、今回は日本のモノづくり産業について私が聞いたり調べたりしたことを基に、私の見解をお届けしようと思います。

モノづくりの技術が途絶えてしまうという危機感

たまに「なぜそこまで”日本製”というところにこだわるのか?」と聞かれることがあります。
それは戦後の日本を知る者として、世界最高峰とまでされた日本の繊細で高度な技術は決して途絶えさせてはいけないと考えているからです。

1970年代の高度経済成長期における日本の技術革新力は凄まじいもので、「日本のモノづくり」は世界に誇れる強みになっていました。
発注者や消費者の高い要求に丁寧に応じるホスピタリティ、妥協せずにこだわりを追求するからこそ生まれる革新的な開発、些細な不便を解消するべく気を配られた仕様、機械には到底不可能な「積年の感覚」だけで行われるミクロン単位の繊細な作業など“日本人ゆえの特性を活かしてこそ出来るものづくり”は、 決して他では真似できないとされてきました。
高品質な商品が手ごろな価格で手に入り、アフターフォローも手厚い「Made in Japan」への信頼性は絶大なもので、名実共に「モノづくり大国」として世界に名をはせるまでとなりました。

しかし今となっては、町工場をはじめとした中小・零細の製造業は様々な理由により廃業に追い込まれている状況です。
私は立場上さまざまな経営者の方と話す事も多いことから、日本産業が途絶えてしまう未来がそう遠くないところまできているのではないかと危惧しており、一経営者としてその事態だけは何としても避けてほしいと考えているのです。

素晴らしい日本の技術も、今では世界に遅れを取っている

日本のモノづくりは残念ながら今ではどんどんと世界に遅れをとっています。

白物家電を例に挙げれば最も分かりやすいでしょう。
かつてはトップシェアを獲得してきていたにも関わらず、この数年の間でどんどんと事業買収が進み、ランキングを見ても日本メーカーの名前は殆ど入っていない状態です。
最先端技術の日本と言われたのも昔の話、今では中国・韓国の企業がランキングに並んでいます。

その要因の一つとして、やはりバブル崩壊やリーマンショックを起因とするデフレが影響が大きいと言わざるを得ないでしょう。
消費活動において質よりも価格を重視する傾向が強くなり、どうしても価格が高くなりがちな国産品は高級品扱いとなった結果、需要はどんどんと落ち込んでいきました。
また、かつては地域産業を守るために中小・零細企業を支えようとしてくれていたメーカー側も、「大量生産」の煽りを受け価格競争を迫られていき、コストの安さにつられて生産拠点を周辺諸国に移すようになりました。
更に世界のグローバル化が急加速に進む中、その流れについていけないというケースも少なくありませんでした。そうして資金繰りに窮する町工場が増えていったのです。

しかし、それ以上に更に深刻な問題があると私は考えています。

日本産業衰退の最大の要因の一つ 海外への技術・ノウハウの流出

日本産業衰退の最大の要因のひとつは、何十年もかけて培われた日本の技術やノウハウが、どんどんと海外に流出していることだと私は考えています。

技術情報を海外の同業他社へと持ち出した元社員が逮捕されたニュースは、この数年の間でも相次いで報じられています。
また、既に倒産・廃業した企業の技術やノウハウ、機械設備を買収するケースや、技術を盗みに日本企業へと入り込むケースもあるようです。
設計に技術力が必要な精密な金型は日本で作られる事が多いためか、元請け企業や親会社が下請け企業の設計図や金型を無断で持ち出し、コストの安い海外で作らせるという事も珍しくないという話も耳にします。

その結果、かつて下請けであった海外企業の方が人材育成・技術力向上が進んで利益が生まれていき、元請けや親会社であった日本企業が傘下に入ったり下請けに回っているという逆転現象に陥っています。
目先の利益を最重視するあまり中小企業や町工場の芽を摘み、将来の利益を産む人材育成の機会を奪ったツケが今になって返ってきているということです。

更には、どんどんと予算を削られる日本とは違い、国を挙げて技術力を上げようとする海外へと拠点を移す日本の優秀な技術者や研究者の流出も後を絶ちません。

このように、かつては技術大国と言われていた日本がどんどんと世界から遅れを取り衰退の一途を辿っている状況は、我々日本人にとって決して楽観視できる状況ではないと考えています。
しかし正直な話、日本人の中に日本国内の技術が衰退している・流出していると危機感を持っている人は少数であり、特に多くの企業は利益重視でその事実に目を瞑ってしまっているのです。

後継者不足に見る、日本産業衰退の危機感

私が特に一番問題視しているのは、熟練工の高齢化により後継者不足に陥り技術継承が途絶えてしまう現状です。

まず一つ目の原因として、需要低下が要因の業績不振による雇用情勢悪化です。
繊細で高度な技術が求められる日本のモノづくりの労働環境・作業内容はいわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」と言わざるを得ないものも多かったのは事実としてありました。
それでも、自分や自社の技術力が日本だけではなく世界の様々な商品・サービスなどに使われているということが、遣り甲斐や誇りとなって受け継がれてきたのです。
しかし、安価な大量生産品が市場の主流になった今ではコストの安い海外の工場に出番を奪われ、受注量も大幅に減少となってしまいました。
そうなると工場自体も下請けに回らざるを得ず、大手企業の価格競争の煽りを受けてコストカットかつ短納期を迫られるという悪循環に陥り、後継者を育てる余裕もなくなってしまっているのが現状です。

最も深刻な原因と考えられるのが、若者の参入が減少していることでしょう。
少子化にくわえ、工業高校の減少や大学進学率の飛躍的向上、バブル崩壊やリーマンショックによる安定志向傾向、さらに職業選択の多様化が広まったことにより、ブルーカラーを選ぶ若者が激減しました。
特に地方においては従業員の確保自体が難しくなっているようです。

また近年では、家族経営である場合が多い中小・零細企業においてかつては一般的であった親族間での事業承継が行われずに廃業しているケースも増えています。
子どもをはじめとした親族が家業を継ぎたがらない場合や、経営能力や技能が不足していて後継ぎに向かないという事から親族内承継を諦めざるを得ない場合もよく耳にします。
そもそも事業承継には何年も前から様々な準備が必要であり、先行き不安から自分の代で廃業を考えているいわゆる「黒字廃業」を考えている経営者も少なくないというのが現在の日本産業の現状です。

技術伝承は途絶えかけている

「技術の伝承」という面で見ると、正直今でも既に手遅れの状態です。
熟練の職人は高齢化によりリタイアが進み、新人は入ってこないという「技術の空洞化」が起きているからです。

技術・技能の習得には、現場で覚えて感覚を掴んでいくという、いわゆる「徒弟制度」が必要不可欠です。
しかし、熟練工がいきなり初心者の若手に引き継ごうとしても、知識や技能に大きな隔たりが在りすぎて無理があるのです。
熟練の職人ともなると、もはや感覚で仕事をしていて言語化が困難であったり、新人の立場に立ってどう指導するのが適切かが分からなかったりするものです。
中堅の立場にあたる先輩・上司が間に立ってくれる「ピラミッド構造」で段階を踏んで循環していくからこそ、スムーズな技術伝承が成り立っているのです。
一度途絶えてしまった技術継承を、再び元の状態に戻すのは極めて困難です。

資源が殆どない日本にとって、技術立国としての立ち位置を守る必要があるのではないでしょうか。
私としては、ドイツのマイスター制度のような「スペシャリストを育成するための仕組み作り」を、国と企業とが一体となってもっと積極的に導入していくべきだと感じています。

日本産業の灯を消さないために

かつての日本は「一生モノ」がコンセプトでモノ作りが展開されていたように思います。
それぞれの製品に専門の修理屋がいるくらい、購入したものを長く大事に使っていっていたのです。
そして物を大事にするという事こそが、更に品質の良いモノ作りへと発展していたのです。
しかし使い捨てとなると「良いものを長く使ってもらう」という思考ではなくなるため、技術が進歩しません。
過剰な機能を付加価値として追及してしまった結果、世界のニーズと合わなくなり、日本は世界から取り残されてしまったのではないでしょうか。

ただ、日本の技術力・開発力は世界には真似できない、本当に素晴らしいものだと考えています。
国を挙げて抜本的な改革と支援が必要な事柄なので、私個人、そしてロンドンティールームという一企業が動いたところでどうともならない問題だと分かってはいます。

それでも
日本産業のともしびを消したくない
日本人にもう一度日本製商品の良さを実感してもらいたい
自国の誇れる技術力を国民総意で守っていくという気持ちを持ってもらいたい
という想いが強くあるからこそ、ロンドンティールームで販売するオリジナル商品はすべて日本製にこだわっています。
それもこれも、敗戦のどん底から世界第2位の経済大国にまで上り詰めたという近代史をこの目で見てきたからです。

日本の産業を守れるのもまた、日本人にしかできない事だと私は考えています。
どうしても値段に目が行ってしまいがちですが、少し値は張ったとしても本当に良い品を大事に長く使うという精神も忘れず持っていただきたいと思います。
長い年月をかけて培ってきた世界に誇れる技術をこれ以上奪われないためにも、どうかご理解頂ければ幸いです。

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