今回から、アイスティーにまつわる記事をいくつか書いていきます。
アイスティーに対する、紅茶専門店の捉え方
全国的に紅茶専門店がブームであった1980年ごろ、超有名店のオーナーたちの間では「アイスティーは紅茶ではなく、清涼飲料水である」という考えが強く、アイスティーへの関心はあまり高くありませんでした。
当時、主流であったアイスティーの作り方は、コーヒー・紅茶の喫茶学校の教えが元になった、茶葉の分量を増やして2倍の濃さで紅茶を抽出し、氷に注いで冷却する方法です。溶けた氷の分、紅茶が薄まり丁度よい濃さになる、というものですが、この方法には問題がありました。
なぜなら、氷の解け具合というのは、コントロールできないからです。仮に、瞬間的に丁度よい濃さになったとしても、氷はどんどん解けだしてしまうので、適切な濃さをキープできません。結果として、水っぽいアイスティーになってしまうでしょう。つまり、氷の解け具合を想定しておいしいアイスティーを作るのは、無理があります。
また、その当時は、多くの紅茶のプロが産地ものの紅茶に重きを置き、「いい紅茶」を提供することに熱心で、アイスティーはおざなりになりがちでした。プロがアイスティーに目を向けずにいる間に、飲料メーカーは消費者のニーズに応えるべく、ペットボトル紅茶の開発と改良を重ねていったのです。一般の消費者の需要はホットティーよりもアイスティーにあったこと、多数の飲料メーカーが開発に着手し、競争が激化したことも追い風となり、瞬く間に飲料メーカーがアイスティーの消費量を独占するようになっていきました。
おいしいアイスティーを作るための努力
当たり前の話ですが、おいしいと思わないものを人はわざわざ買いません。「ペットボトルの紅茶は、紅茶ではない」「邪道だ」といくら批判をしようが、多くの一般の消費者にとって、ペットボトルのアイスティーはおいしい紅茶なのです。ペットボトル紅茶が「倍の濃さで作る製法」と違い、水っぽくならないことを考えれば、支持されるのも納得できます。
消費者のことを第一に考え、何をおいしいと感じるか、絶えず研究を重ね、開発と改良を続けてきたことが、ペットボトルのアイスティーがここまで普及するに至った、大きな理由でしょう。
また、ペットボトル紅茶だけでなく、紅茶専門店のアイスティーにとって、強敵ともいえる存在が増えていきました。インド式の煮込み紅茶であるチャイを専門に扱うお店です。
多くのチャイ専門店では、ホットだけでなくアイスも取り扱っています。チャイ専門店で作るアイスチャイは、2倍の濃さで作って氷で薄めるという方式はとらず、熱いチャイを冷まして保存しておき、注文が入ったタイミングで氷の入ったグラスに移す方式が主流のようです。通常のアイスティーと異なる、スパイスの効いた濃厚な味は、人気を博しました。
ペットボトルのアイスティーがどんどんと改良を重ねて進歩し、チャイ専門店のような特殊なアイスティー(アイスチャイ)を提供するお店も増えていく中、紅茶専門店が提供するアイスティーは、「2倍の濃さにして氷が解けて丁度良い」が主流のままです。「どうすれば、おいしくなるか」を考えずに昔のままを提供し続けていては、アイスティー目当てのお客様は来なくなってしまうでしょう。
紅茶のプロとしては、「倍の濃さで作る」という製法を切り替え、ベストなバランスの紅茶を如何に薄めずにアイスティーを作るか、真剣に考えてほしいものです。
今後の記事では、アイスティーの作り方をご説明していきます。「おいしいアイスティーを作りたい」と考える皆様の一助になれば、幸いです。
次回は、アイスティーを作る際の茶葉の選び方について、ご説明いたします。