今回は30年以上前の、ロンドンティールームのマスター金川宏のムジカでの修業時代のエピソードをご紹介したいと思います。
ご存知、マスターはロンドンティールームのオープン前、有名なティーハウス ムジカで修行を積んでいたのですが、ムジカは当時から紅茶専門店の第一線。紅茶専門店を開くことを夢見る若者が多く働いていました。当時から大人気店だったのですが、ムジカのお茶場(キッチン内で紅茶を作るところです)に立つのはティースペシャリストと呼ばれ、当時はスペースも広くなかったことから一人で全オーダーをこなしていました。
そのティースペシャリスト、どんなすごいポジションかというと・・・上の写真のように、ラベルの貼られていない、ムジカの茶葉10種類以上を見た目と香りだけでオーダー通りの紅茶を入れるというもの。ラベルが貼られていないので、素人には一見全部同じように見える茶葉を正確に当てるんですね・・・。ラベルを張っていないので、置いている位置で覚えようとしても休憩から帰ってくると位置が変わってる・・・なんてこと当たり前らしく、見た目と香りを頭に叩き込まないとそもそもお茶場に立てなかったそうです。
しかもオーダーが一度に通る上に、客一人一人でバラバラだったらしく(当時はセットメニューがなく、お客はすべて単品のフードと好きな紅茶を頼んでいたそうです。)、怒涛のように押し寄せるオーダーをすべて覚え、的確に何も貼ってない缶から選んでいく。
さらにすごいのはティースペシャリストが出した紅茶を店主の堀江さんがポットからの香りだけでチェック。「これディンブラじゃなくてヌワラエリヤじゃん。」なんて微妙な差も逃さないそうです。
この見た目と香りを一瞬で区別できるようになるまで、洗い場で修行を積み、数か月かけて頭に叩き込んでからやっとお茶場デビューとなるんだとか。
さて茶葉を見た目と香りで判別するときのコツを教えてもらいました。まずは特徴のある香り、見た目のものを覚える。アールグレイやジャスミンティーなどがその代表です。独特の香りがあったり、ジャスミンの花が見えたり。この2つを覚えれば、たとえば10種類→8種類に絞り込めます。次は見た目。リーフタイプかブロークンタイプか。これでさらに絞り込めるので、あとはそれぞれを覚えるだけ。ダージリンなのかアッサムなのか。色や形状、香りの違いを覚えて絞り込んでいくのだそうです。
問題というか難関はブロークンタイプの茶葉。細かくて茶葉の形状の差が出にくいため、これはもう色、香りなどを総合して覚えるしかないそうです。
このものすごい訓練、ご家庭で楽しむレベルであればいくらやっても難しいようですが、当時は覚えないことにはお茶場に立てない。つまり仕事にならないわけです。やらなきゃいけない場面に遭遇すると覚えるようになり、覚えた後では別になんてことないと思うようになるそうです。すごい・・・・。
こんなティースペシャリスト修行を経て、無事にロンドンティールームをオープンさせたマスター。紅茶専門店を開くというからにはさすがにものすごい修業時代があったんですね。
さて最後に問題です。これは何の茶葉でしょうか。写真なので見た目の形状だけですが、有名な茶葉です。暗いってのはナシで!厨房なんて暗いもんですよ!