2024年11月下旬に発売を予定している、『紅茶の福袋2025』。今年の紅茶缶は、イギリスの国民的キャラクター『ピーターラビット』デザインです!
ところで、『ピーターラビット』というキャラクターは知っていても、内容をしっかり読んだことがある方は、案外少ないのではないでしょうか。
この記事の担当者も、キャラクターを見たことはありますが、肝心の内容はほとんど知らず……。何なら、キャラクターの名前ですらうろ覚えです。
▲主人公のうさぎは『ピーター』。
Beatrix Potter, Public domain, via Wikimedia Commons
せっかくの機会なので、今回はそんなピーターラビットについて、少し深堀りしてみました。
お話の内容や著者について調べてみると、意外なメッセージが見えてくるんです……。
『ピーターラビットのおはなし』とは
▲主人公のピーターと3羽の妹、お母さん(お父さんはパイ)
Beatrix Potter, Public domain, via Wikimedia Commons
ピーターラビット、正確には『ピーターラビットのおはなし』シリーズ。1902年に発刊されてから24巻が出版され、120年以上の歴史をもつ大作でもあります。
小さなうさぎのピーターをはじめとするキャラクターたちが織り成す、小さいけれども大きな出来事がつづられたお話です。
絵柄と同じく、内容もゆるふわ……ではありません。実のところ、ブラックな展開も多く含まれた、どこか刺激の強いお話も混ざっています。
お父さんは……パイ !?
▲イギリスには「うさぎパイ」なる郷土料理がある
まず、ピーターのお父さん。なんと物語が始まった時点で、すでにパイにされて食べられているんです。公式サイトのキャラクター紹介でも、パイのまま紹介される扱いでした。
子猫がネズミにパン的なものに加工されて食べられかけたり、いじわるなうさぎが猟師に打たれて耳と尻尾しか残らなかったり……およそ児童向けとは思えない内容も少なくありません。ニンジンと耳と尻尾だけが残された挿絵は、シュールさと残酷さを否応なしに感じさせられます。
映画でも大暴れ
2021年に公開された映画版では、うさぎたちが画面狭しと飛び回るアクションシーンまで追加されることに。原作のストーリーやキャラクターへの愛を失わず、かつ映画として見ごたえのある作品となっていました。
マグレガー家の息子さん(今作最大の被害者)に、うさぎたちがダイナマイトや高圧電流で容赦なく攻撃……。イタズラで済まないレベルの暴れっぷりは、任侠映画に例えられるほどです。
作者『ビアトリクス・ポター』について
▲ビアトリクス・ポターの半生を描いた映画『ミス・ポター』
そんなピーターラビットを著したのは、1866年生まれの女性『ビアトリクス・ポター』。彼女がピーターラビットを書いたきっかけは、1通の手紙でした。
比較的裕福な家に生まれた彼女は、家庭教師から勉強を学び、学校には通っていません。そんな家庭教師の息子・ノエルに贈った手紙に、彼女はこう書きました。
「ノエル君、私はあなたに何を書いていいかわからないので、4匹の小さなウサギのお話をしようと思います。そのウサギの名前は『フロプシー』に『モプシー』に、『コトンテイル』、そして『ピーター』と言いました。」
▲ビアトリクス・ポターがノエルに贈った手紙。ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館に所蔵されている
Beatrix Potter, Public domain, via Wikimedia Commons
この1節とともに、添えられたうさぎの挿絵。『ピーターラビット』が産声を上げた瞬間でした。
その後、ビアトリクスはシリーズ1冊目となる『ピーターラビットのおはなし』を自費出版。この200部が瞬く間に売れたことを聞きつけた出版社は、翌年8,000部を販売することにします。2度の出版と、度重なるシリーズ化を経て、ピーターラビットは大人気になりました。
ピーターラビットの舞台、湖水地方
▲ビアトリクスによるキノコのスケッチ。当時の女性には絵の技術が求められたこともあり、ビアトリクスも植物や動物を描き続けていた
Beatrix Potter, Public domain, via Wikimedia Commons
そんなビアトリクスがピーターラビットのインスピレーションを得たのは、イギリスの湖水地方でした。ビアトリクスは、16歳のとき初めて湖水地方を訪れます。友達がいなかった彼女にとって、唯一心を許せるのが、自然だったのです。
ピーターラビットの作中には、彼女が滞在した邸宅『ヒル・トップ』の内装や、湖水地方の情景が頻繁に登場します。
そして、執筆を止めた後、彼女は湖水地方で農夫として過ごしました。ピーターラビットのヒットに伴って得た印税をもとに、湖水地方の環境保護活動に従事していきます。
▲ピーターラビットの聖地・ウィンダミア湖
1943年に亡くなるまで、彼女は愛する自然を守り続けました。遺した4,000エーカーの土地と、15の農場は、ナショナル・トラストへ寄付されています。
彼女の遺骨は、湖水地方が見える丘に散骨されたといわれていますが……。具体的な場所は、夫にも教えなかったようです。大好きな湖水地方を、自由な風になって、ずっと見守っているのかもしれませんね。
そんな彼女の生き様は、2006年(日本では2007年)公開の映画「ミス・ポター」にて、詳しく知ることができます。
自由への憧れと責任を詰め込んだ作風
『ピーターラビットのおはなし』を通して、ビアトリクスが伝えたかったメッセージとは何だったのでしょうか?
ここまで述べたビアトリクスの半生を考えるに、ピーターラビットには『自由と責任』という考えが込められているのだと推測します。
彼女の幼少期は、制約の多いものでした。学校に行けず、婚約した相手にも口を出される始末。上流階級として当たり前のことだったのかもしれませんが、その束縛から逃れたい、と考えてもおかしくない状況です。
▲湖水地方には野生のうさぎが生息している。なお、ピーターラビットのモデルは、ロンドンでポター一家が飼っていたうさぎらしい
そんな時に、訪れた湖水地方と、目にした自然。壮大な森や湖、息づく動物たちは、きっと何よりも自由に映ったことでしょう。
しかし、動物たちは自由にのびのびと生きているように見えても、実際は何かしらの脅威にさらされ続けている。他人の畑に忍び込んでイタズラすれば、パイにされることだってある。
我々は食べられるリスクこそないものの、自由に生きるには制約が多いのも事実。自由が欲しいのであれば、自分でその責任を負うしかない。
ビアトリクスは、自然から得たこの教訓を『ピーターラビット』に込めたのではないでしょうか。
ピーターラビットの魅力を知ってみよう
▲ビアトリクスが自費出版した『ピーターラビットのおはなし』初版本。出版社から発売された本は、挿絵に色が付けられ、物語が短くされている
Beatrix Potter, Public domain, via Wikimedia Commons
今回の記事は、ピーターラビットについてのお話でした。この記事を書くために調べていたら、いつの間にかのめり込んでしまい……。
児童向け絵本ではあるものの、大人にも通じる、深い魅力をもった作品であると気づきました。120年以上愛され続けるコンテンツには、現代人にも響くだろうメッセージが込められているようです。
書店や雑貨屋で見かける、小さなうさぎのお話・ピーターラビット。それほど愛される理由は、ビアトリクスの残したメッセージを、ずっと伝え続けているからかもしれません。