Tea Story 読めばきっと好きになる紅茶のお話

2023.08.10

【特許】「ロイヤルミルクティーの製造方法」が特許を取得しました。

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濃厚・まろやかな風味が人気の、ロンドンティールームのロイヤルミルクティー。
創業から40年間、ロンドンティールームの看板メニューとして愛されてきた「ロイヤルミルクティーの製造方法」が、この度特許を取得しました。

目次

特許証と認定内容

特許に関する詳細は以下の通りです。

 

【特許番号】 特許第7303589号
【登録日】 令和5年6月27日
【出願日】 令和4年8月26日
【発明の名称】ロイヤルミルクティーの製造方法
【特許権者】 株式会社ロンドンティールーム
【発明者】 金川 宏 (※審査官:山本 英一)
【出願番号】 特願2022-134955

特許情報はこちら

※今回取得したのは「商標登録」ではございません。
当特許は、当店のロイヤルミルクティー製造法・材料に関する特許であり、 「ロイヤルミルクティー」の名称がつけられた商品およびメニュー等に対して制限をする意図はない点をあらかじめご了承ください。

ロイヤルミルクティーの開発経緯

ロンドンティールームのロイヤルミルクティー誕生のきっかけは、当店のマスターがイギリスで飲んだ1杯のミルクティーでした。

お湯で淹れた紅茶にたっぷりのミルクを注いだ、普通のミルクティー。 クリームができるほど濃厚でコクのある生乳と、ミルクに負けないほどのコク深い紅茶が合わさったイギリスのミルクティーの美味しさは、言葉にできないほどでした。

それは当時のマスターが知っていた紅茶とは、まるで別物だったのです。

というのも、1970年ごろの日本の喫茶文化には、紅茶よりコーヒーというイメージが定着していました。

さらに、当時の紅茶専門店では、アッサムやダージリンのようなエステート紅茶が主流。 ミルクティーにこだわる人も少なく、「紅茶にミルクを入れれば何でもミルクティー」と言われたこともあります。

この状況で、あのミルクティーの美味しさを広めるには、 コーヒーや紅茶にならぶ、3つ目のポジションを確立するしかない。

とはいえ、言うは易し、行うは難しです。 作ろうと決めた瞬間から、問題が山積みでした。

まず、当時の日本では、濃厚な牛乳が手に入りません。あのミルクティーのような濃厚な味が出せる牛乳が見つからないうえ、紅茶の味をより深く出す手段も必要です。

ならば、茶葉・お湯・牛乳を鍋で煮込んで作れば、濃厚な風味が出ると考えました。

しかし、煮込むとなると、今度は紅茶の味が問題です。
茶葉は煮込むとうまみ・甘味といっしょに、エグ味や雑味が強く出てきます。
当時から煮込みに向いているのはアッサムCTCだと言われていましたが、実際に煮込んだものを飲んでみると、エグ味が強く出てしまいました。

同じように煮込んで作るチャイやスパイスティーは、スパイスや砂糖を入れて味を整えているため、美味しくいただけるのですが…。

しかし、マスターが目指すのは、お湯と、茶葉と、牛乳だけで作る、シンプルながら洗練されたおいしさでした。紅茶とミルクの濃厚な風味を楽しめて、スパイスや砂糖に頼らなくてもエグ味や雑味のない、純粋なミルクティー…。その味を、どうしても作り上げたかった。

ロイヤルミルクティーの開発を始めたのは、あの味を届けるためだから。そこを譲ってしまったら、きっと感動は伝わらない。だからこそ、その一点だけは譲れませんでした。

どうにかしてエグ味を消す方法を探して、お湯の温度や牛乳の種類を変え、試作と失敗を繰り返す日々。そんな中、ふと茶葉には何も手をつけていないことに気づきます。

そして思いついたのが、煮込んでもおいしくなるように茶葉をブレンドすることでした。多方面から協力を得ながら、ブレンドの最適な比率を見つけ出して調理法を確立するまで、およそ数年…。

険しい道のりを経て完成したのが、当店のロイヤルミルクティーです。

当時の記録はこちら▼の記事でも紹介していますので、合わせてご覧ください。

ロイヤルミルクティー誕生までの道のり

ロイヤルミルクティー誕生までの道のり

なぜ、いま『特許』なのか

そんなロンドンティールームの「ロイヤルミルクティーの製法」が、この度特許を取得しました。

ところで特許とは、自分の発明を守るための権利です。
通常のケースでは、他者からの侵害を防ぐために取得するのですが、今回ロンドンティールームが取得した理由は少し違います。

今回の特許は、ロンドンティールームのロイヤルミルクティーのレシピを残していくため、そして当店の技術や考え方を広めていくためのものです。

というのも、せっかくロイヤルミルクティーが有名になっても、
それを作る人がいなければ意味がありません。

極端な話をすると、100年後まで、
この店が残っている保証はどこにもない。

でも、このロイヤルミルクティーの味だけは、
どうしても残したい。

だから今、多くの人にロイヤルミルクティーの美味しさを感じてもらいたかった。そして、その美味しさを語り継いでいく人たち、技術や考え方を受け継いでいく人たちが生まれる可能性を消したくなかった。

ここ数年、ホームページやSNSで情報発信をしてきた甲斐あって、ロイヤルミルクティーの知名度は確実に上がっているのではないか、と肌身で感じています。

しかし、数あるロイヤルミルクティーの中で、基準や教科書となるレシピであり続けるためには、他に負けない特別な強みが必要です。

さらに、このレシピは誰にでも手に取ってもらえるよう、
誰にでも理解できるように、誰にでも再現できるように書きたかった。

特許という公的機関が認める文書なら、万人に伝わる書き方で、レシピを残せると考えました。もっとも、原文のまま読むのはちょっと大変ですが…。

特許のレシピを広めたら、きっと真似して作ってくれる人も出てくる。 そしてそのうち、レシピをアレンジしてくれる人も現れる。
もしかしたら、このレシピを発展させて、より美味しいロイヤルミルクティーが生まれるかもしれない。

願わくば、ロイヤルミルクティーがもっと親しまれる存在になるように。

いつか来るその日まで、このレシピを守り、技術や考え方を広めていく必要があります。誰でも自由に使えるように、誰かに独占されないように守るためには、特許という手段が必要でした。

店の利益だけを考えるなら、レシピは秘密にしておいた方が良かった。
その方が、店に来てくれる人は増えます。しかし逆に言えば、店に来てくれたお客さんしか、当店の味を楽しめません。

ロンドンティールームが本当にやりたいことは、日本にミルクティーの美味しさを広めることです。
この店がある限り、あるいはなくなっても、紅茶の魅力を多くの人に伝えていきたい。

このレシピを使ったロイヤルミルクティーが受け継がれていくことは、この上ない幸せだと考えます。
だからこそ、ロイヤルミルクティーの可能性を未来に残すために、特許に挑戦しました。

特許のポイント

特許申請を出したのは、2022年も後半にさしかかろうかという時期。 意気揚々と提出した最初の申請は、あっけなく拒絶されました。

特許のハードルの高さは、我々の想像を遥かに超えていたのです。
それもそのはず、特許には新規性(従来との違い)進歩性(今後の展望)が必要。

ロンドンティールームのロイヤルミルクティーを広める目的で、2008年頃からYouTubeやブログでレシピを公開し、ご自宅でも再現できるようにしてきました。

しかし、今回の特許では、この公開が拒絶につながったのです。過去に公開した、それも10数年が経過したレシピには、新規性があると判断されませんでした。

では、そこからどうやって特許を取ったかといいますと。ロンドンティールームのロイヤルミルクティーの開発経緯を振り返り、以下3点のポイントを押し出すことにしました。

  • 濃厚なミルクティーを再現できるレシピ
  • 渋み・雑味を抑えたブレンド茶葉
  • アイスティーで味が引き立つ工夫

なお、当時の研究の一部はこちら▼から見ることもできます。

私のロイヤルミルクティーへの熱い想い

私のロイヤルミルクティーへの熱い想い

濃厚なミルクティーを再現できるレシピ

お湯・茶葉・牛乳という素材の味を最大限に引き出した、ロンドンティールームのロイヤルミルクティー。そのシンプルかつ洗練された風味の秘密は、煮込み調理にあります。

ロンドンティールームオリジナルブレンドのロイヤルミルクティー用茶葉を煮込めば、紅茶の甘味・うまみだけが抽出されます。そこに後から牛乳を入れて煮込むと、ご家庭にある牛乳でも、まろやかで濃厚なミルクティーに仕上がるわけです。

煮込み調理を思いついたのは、手軽に購入できる牛乳から、なんとか濃厚なミルクティーを作ろうと試行錯誤した結果でした。
今のように濃厚な牛乳が手に入らなかった時代だからこそ、生まれた工夫といえます。

そんな開発当初から数年後、濃厚な牛乳を販売するメーカーも出てきました。開発当初よりも、濃厚なミルクティーを手軽に味わえるようになったことに、時代の進歩を感じます。

では、なぜ煮込んで作るロイヤルミルクティーを提供し続けているのか?それは単純に、ティーポットの抽出力では、ロイヤルミルクティーを超えるインパクトを出せないからです。

「ロイヤル」を名乗るのにふさわしい濃厚さとまろやかさを出すには、煮込み調理が欠かせません。
牛乳の風味を活かしつつ、紅茶の味・香りを強く感じられる、濃厚なミルクティーとして楽しめます。

現在当店で使っているのは、乳脂肪分4.0%以上の牛乳です。
お店で提供しているロイヤルミルクティーの味がお好みであれば、濃厚な牛乳で作ってみてください。

当店にロイヤルミルクティーを飲みに来てもらうのはもちろんですが、ぜひご自宅でも作ってみてください。
自分の環境でしか作れない、自分好みの味が出来上がるかもしれません。

渋み・雑味を抑えたブレンド茶葉

当時の日本で紅茶といえば、単一農園から採れたエステート茶葉が主流でした。
一方、イギリスではミルクティーにしたとき一番おいしくなるように考え、茶葉をブレンドして味を安定させています。

そのことを知ったのは、イギリスで紅茶メーカーの工場を見学したときでした。
当時懇意にしていただいていた片岡物産の方に、本場の紅茶メーカーを紹介してもらったのです。

工場を見学して、様々な気づきを得ました。
紅茶の消費量が多いイギリスでは、高級茶葉より安価で美味な茶葉が好まれること。
そして、茶葉同士をブレンドして安定した味を生み出していること。
そうした工夫から、あのミルクティーの美味しさがつくられていること…。

本場・イギリスで話を聞いて初めて、「煮込みに適したブレンドを作れないだろうか」と思い至りました。
そして試行錯誤の末、完成したのがロンドンティールームオリジナルブレンドのロイヤルミルクティー専用茶葉です。

なお現在でも、ロイヤルミルクティーのブレンドの研究は続けています。ロンドンティールームのロイヤルミルクティーに完成はなく、変わらない味を届けるために変わり続けるものです。

2020年頃より、ブレンドのベースにしたのは、煮込みに適しているといわれるアッサム茶葉。そこにセイロン・ディコヤ産の茶葉ケニア産・マラウイ産の茶葉を加えることで、甘味を感じられるブレンドに仕上げました。

茶葉を煮込むと出てくるエグ味や雑味はほとんど感じられず、うまみや甘味を存分に楽しめます。
砂糖を入れなくても美味しく飲めるロイヤルミルクティーが作れるのは、この茶葉のおかげです。

アイスティーで味が引き立つ工夫

日本ではホットよりも、アイスティーが大人気です。ペットボトルや紙パックの紅茶はほとんどがアイスであることからも、その人気が見て取れます。
そのため、ロイヤルミルクティーを開発する際もアイスティー人気を考え、アイスロイヤルミルクティーにする前提で開発しました。

茶葉から抽出した紅茶をアイスティーにした場合、どうしても茶葉の味や香りを感じにくくなります。
ここに氷を入れたり、牛乳を入れてミルクティーにしたりすると、さらに薄くなってしまうわけです。

一方で、当店のレシピは最初からアイスにすることを考え、濃厚な味わいになるように調整しています。

アイスロイヤルミルクティーにしても濃厚さ・まろやかさはそのまま。紅茶と牛乳の風味が絡み合い、コク深い味わいを醸し出します。
その味わいに惹かれて、ホットよりアイスロイヤルミルクティーを好むお客様もいらっしゃるほどです。

なぜ、こんなにもコク深い味が出るのか?
それはロイヤルミルクティーを作った後、数時間寝かせているためです。

煮込んだロイヤルミルクティーを寝かせておくと、紅茶と牛乳の味がよくなじんで、より調和した風味になります。

紅茶の鑑定士さんに言わせれば、この味はブレンドで出せるものではないそうです。むしろ、麹のような発酵・熟成された風味に近いといいます。

もっとも、作り手の我々には、細かい理論はわからないのですが…。とにかく、美味しくなることは間違いなさそうです。

アイスロイヤルミルクティーの詳しいレシピは以下の記事に掲載していますので、合わせてご覧ください。

【プロ向け】アイスロイヤルミルクティーの作り方(6人前)

【プロ向け】アイスロイヤルミルクティーの作り方(6人前)

ロイヤルミルクティーの達人たちへ

ロイヤルミルクティーのレシピを考案してから、はや40年。インターネットが普及した現在では、様々な場所で、様々なロイヤルミルクティーのレシピが投稿されています。

そんなロイヤルミルクティーを愛好する人たちにとって、ロンドンティールームのロイヤルミルクティーのレシピが一種の『教科書』になればと思います。

全国の人たちに当店のレシピが届けば、新たなロイヤルミルクティーの達人が生まれるかもしれません。
研究が進めば、より優れたレシピができるかもしれません。

今回の特許がロイヤルミルクティーの、ひいては日本の紅茶文化が広まるきっかけになればと思うばかりです。

おわりに

この度、特許を取得できたことを非常に喜ばしく思っております。今後も研究を続けながら、この味を残していくために精進を続ける所存です。

ロンドンティールームのロイヤルミルクティーの開発に関わっていただいた皆様、そして愛していただいた皆様へ。
この場を借りて、感謝を申し上げます。
そして引き続き、ロンドンティールームのロイヤルミルクティーをお楽しみいただければ幸いです。

遥か遠い未来にも、日本で紅茶文化が盛り上がっていくこと、続いていくことを信じて。

2023年8月9日 金川宏

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